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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)8285号 判決

東京都府中市新宿二丁目八、一四〇番地

原告

遠藤政賢

東京都大田区山王二丁目二、一五八番地

被告

川島正次郎

右訴訟代理人弁護士

庵治川良雄

右当事者間の昭和三二年(ワ)第八、二八五号継承申立確認請求事件について当裁判所は左のとおり判決する。

主文

原告の請求は棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「一、被告は学校法人専修大学の評議員より選任された理事の三分の二以上の者をして原告を同学校法人の理事に選任する決議をなさしむべし。二、被告は同学校法人理事会をして訴外荒木好三を同学校法人参与にするとの議決をなさしめた上、同人を参与に依嘱すべし。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、訴外梁田次郎は学校法人専修大学の理事長であつたが、昭和二十三、四年頃原告に対し、原告及び訴外荒木好三の同大学生田校舎の建設等に対する功労に報いるため、原告を同大学理事に選任し、右荒木に同大学参与を依嘱する旨約した。右梁田はその後右理事長を辞し、被告が理事長に就任した。従つて梁田の本件債務は現在の理事長である被告に当然承継された。

二、学校法人専修大学の寄附行為第八条第三項によれば同大学に関係のある学識経験者のうちから評議員会の意見をきき評議員より選任された理事の三分の二以上の議決をもつて理事を選任するとあり、又同第二十三条第四項によれば参与は理事会の議決により理事長これを委嘱すとある。

三、よつて原告は右寄附行為に定めた手続により原告を理事に選任し、訴外荒木に参与を委嘱させるため本訴請求に及んだ。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張の寄附行為の規定あることは認め、その余の事実を争うと述べた。

理由

私立学校法第三八条第一項第三号によれば、学長及び評議員から選任された理事以外の理事は、寄附行為の定めるところにより選任されることが規定されている。而して訴外学校法人専修大学寄附行為第八条第三項によれば右理事は右法人に関係ある学識経験者のうちから評議員会の意見をきいて学長である理事及び評議員より選任された理事の三分の二以上の議決をもつて選任される旨規定されていることは当事者間に争はない。従つて右規定の趣旨は理事を選任するためには、議決権者の自由な意思の表明により、その三分の二以上の多数決によつて決することにあることは明らかであるから、何人も右議決権者に対し一定の者を選出すべき旨法的拘束を加えることは許されないと解しなければならない。被告は原告を理事に選任する旨右学校法人理事長と契約したと主張するが、この契約の効果として理事長が理事の選任決議の議決権者に原告を理事に選任する議決に賛成するよう法的拘束を与えることにならなければ、原告の本件請求権は発生しない。然し以上述べたとおり、本件契約に上述の効果を認めることは法律上許されない。従つて請求の趣旨第一の請求は他の点を判断すまるでもなく主張自体において失当を免れない。

次に訴外荏木好三を学校法人専信大学の参与に要請すべしとの請求について判断する。同学校法人寄附行為第二三条第四項に参与は理事会の議決により理事長これを委嘱する旨規定されていることは、当事者間に争がない。従つて参与の委嘱は理事長が右学校法人を代表してなすところであるが、何人に参与を委嘱するかは理事会の議決に委されていること明らかである。理事会の議決について何人も各理事の意思を法的に拘束できないことは理事が法人の機関としての性質上当然のことである。従つて、原告は右学校法人理事長と訴外荒木に参与を委嘱させる契約ある旨主張するが、この契約に基いて原告が右理事長に対し本件請求を認めることは前段に述べたと同じ理由により法律上許されない。従つて本件請求も他の点を判断するまでもなく主張自体において失当を免れない。

以上述べたところにより、原告の本訴請求はすべて失当なものとしてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部茂吉

裁判官 上野宏

裁判官 中野辰二

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